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最高裁判所第三小法廷 昭和51年(オ)521号 判決

上告人

江端正一

右訴訟代理人

河谷泰昌

被上告人

再生会社株式会社北海物産商会

管財人

阿部長三

被上告人

山本司

右両名訴訟代理人

牧口準市

被上告人

井上庄七

被上告人

遠軽信用金庫

右代表者

村上富之助

主文

本件上告を棄却する。

上告費用は上告人の負担とする。

理由

上告代理人河谷泰昌の上告理由第一点について

所論の点に関する原審の認定判断は、原判決挙示の証拠関係に照らし、正当として是認することができ、その過程に所論の違法はない。論旨は、採用することができない。

同第二点について

民法四九六条二項の規定は、質権及び抵当権と同様に当事者の合意によつて成立する担保権である譲渡担保権が被担保債権の弁済供託によつて消滅した場合にもこれを類推適用すべきものであり、したがつて、譲渡担保権が被担保債権の弁済供託によつて消滅した場合には、弁済者は供託物を取り戻すことができないものであるとともに、供託物を取り戻したときであつても譲渡担保権は復活しないものと解するのが、相当である。これと同趣旨の原審の判断は、正当として是認することができ、原判決に所論の違法はない。これと見解を異にする論旨は、採用することができない。

よつて、民訴法四〇一条、九五条、八九条に従い、裁判官全員一致の意見で、主文のとおり判決する。

(江里口清雄 高辻正己 服部高顯 環昌一 横井大三)

上告代理人河谷泰昌の上告理由

第一点 〈省略〉

第二点 原判決には、判決に影響を及ぼすこと明かな法令の違背がある(民事訴訟法第三九四条)。

一、原判決は、上告人が代物弁済ないし譲渡担保権実行により本件山林の所有権を取得した事実は認められないので、北海物産の上告人に対する債務はひきつづき存続したが、右債務は北海物産が昭和三六年九月五日なした弁済供託によつて消滅し、これにより本件和解条項に基づく上告人の譲渡担保権も消滅したと認定した(原判決一五枚目裏五行目から一六枚目表六行目まで)。

一方、北海物産がなした右弁供託は、昭和四一年九月二〇日北海物産代理人山本梅吉が弁済供託金を取戻した旨認定している(原判決一五枚目表七行目から一〇行目まで)。

そして、右取戻の効力に触れ、「その後北海物産は山本梅吉を代理人として右供託金を取戻しているものではあるが、右のとおり適法有効に弁済供託がなされたことにより本件和解条項第一項記載の債務は消滅し、控訴人の譲渡担保権も消滅するに至つたのであるから、民法第四九六条第二項の規定を類推適用し、右取戻当時北海物産には本来供託金の取戻権が既になく、従つて右取戻がなんらかの理由によつてできたとしても控訴人の譲渡担保権が直ちに復活することはないと解するのが相当である。」と判示する(原判決一六枚目表七行目から同裏二行目まで)。

上告人は、原審における昭和四六年一月二六日付準備書面二の(2)において、右供託金の取戻によつて北海物産は右供託をしなかつたものと看做されるのであるから(民法四九六条一項但書)、北海物産の上告人に対する債務弁済の効力は遡つて消滅し、本件山林の所有権は右供託の前後を通じ上告人に存し、北海物産が和解条項第七項に基づく強制執行としてなした上告人に対する所有権移転登記の抹消登記は、原因を欠く不法のものであると主張しており、原判決の右判示は上告人の右主張を排斥したことになる。

二、原判決が、譲渡担保権について民法第四九六条第二項の規定を類推適用し、一旦なされた弁済供託によつて譲渡担保権が消滅したので、北海物産には供託金の取戻権がない、したがつて取戻がなされたとしても譲渡担保権が復活することはないと判断したのは、明かに右条項の解釈を誤つたものである。

すなわち、右条項によつて取戻権が発生しないのは、明文にもあるとおり、供託によつて質権または抵当権が消滅した場合に限られ、譲渡担保権が消滅した場合には及ばず、譲渡担保権について右条項を類推適用する余地はない。したがつて一旦した弁済供託によつて譲渡担保権が消滅したとしても、取戻がなされれば譲渡担保権は当然復活するものと解すべきであつてかかる解釈は現時の通説でもある(たとえば、注釈民法(12)三一七頁、三二三頁参照)。供託規則第一三条第二項第七号が、供託により質権または抵当権が消滅するときは、供託書にその質権または抵当権の表示をすべき旨規定しているのは、右通説の見解と軌を一にするものであり、民法および供託規則に明文のない譲渡担保権について上記民法の条項を軽々に類推適用をするがごときは厳に慎むべきである。本件において、北海物産が弁済供託金の取戻をなし得たのは、原判決のいうように「なんらかの理由によつて」ではなく、明かに本来適法な取戻権が有したがためであつて、その反面において取戻の結果上告人の譲渡担保権が復活したことは疑問の余地なきところである。さすれば、その後北海物産から被担保債務の弁済がなされていないことが明かである以上、本件山林の所有権は上告人に帰属するもので、上告人の本訴請求は理由があることとなる。

要するに、原判決には右の点に関し判決に影響を及ぼすこと明かな法令解釈の誤まりがある。

以上いずれの点よりするも、原判決は違法であり、破棄さるべきである。

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